自動車のレビューや開発者インタビューを見ると『剛性』と『剛性感』というキーワードがよく出てくるのではないでしょうか。
たとえば前モデルより剛性が●●%アップしている、この車は剛性感があるので走りが良いというような説明です。ただ、エンジニア出身の方でないとこの剛性と剛性感の違いがわかりにくく混同されている方も多いように見受けられます。
そこで今回は、自動車の『剛性』と『剛性感』の違いについてわかりやすく解説していきます。
そもそも剛性とは何か?
自動車などで論じされる『剛性』とは、材料力学で定義されている『剛性』を指しています。
材料力学ではヤング率や物理の公式の概念なのですが、今回のブログでは感覚的に理解してもらうことにフォーカスして説明していきたい思います。
剛性というのは物体の変形のしにくさと捉えていただくと良いでしょう。
たとえば、同じ厚さのアルミの板と鉄の板を曲げようとした時に、アルミの板の方が曲げやすく、鉄の板は曲げにくいというのは感覚的にわかるかと思います。
このように同じ板の厚さ・形状の場合、剛性は鉄の方が高いという表現になります。
同じ厚さ・形状の場合は鉄の方が剛性が高いということがミソなのです。
例えば、アルミでも厚さが5倍ある場合やアルミがエンジンブロックのように厚く複雑な形をしていると曲げにくくなります。
ポイントしては、剛性は素材と形状によって決まるとざっくりと理解しておくと良いでしょう。
先ほど、同じ形状であれば鉄の方がアルミよりも剛性が高いとお話ししましたが。
それだけを聞くと、鉄だけで自動車を作った方が剛性が高まるため良いのではないかと感じる方もいるかと思います。
ただ、自動車の場合は重量との戦いですので、重量と剛性のバランスを見ながら各所の素材を決めなければなりません。
鉄よりもアルミニウムの方が軽いですので、アルミニウムの形状を工夫して鉄と同じ剛性を出しながら軽量化しているのです。
以上のように、新車の開発者インタビューなどに出てくる前モデルに比べて剛性が●●%アップというのは、材料工学の観点での剛性を指しています。開発者は車の重量が乗り心地や燃費につながるため、衝突安全性(強度)や剛性などを勘案しながら開発をしているのです。
では自動車レビューに出てくる剛性感とは?
次に、剛性感についてざっくりと説明していきます。自動車レビューに出てくる剛性感というのは、先ほど述べた素材の剛性ではなく人の感覚でかっちりと安定していることを指しています。
例えば、軽自動車やバンなどのハイト系ワゴンで少し早めのスピードでカーブを走行する場合、カーブで頭や体がふらつき車が倒れそうで怖いと感じることがあるのではないでしょうか。この感覚がレビューなどで出てくる剛性感の正体です。
繰り返しになりますが、剛性感は人の感覚によるものですので、車自体の剛性は全く変えずに、レカロやサイドサポートのあるスポーツシートに切り替えるだけで、ドライバーの体のふらつきが少なくなり人間の感覚では剛性感が上がっていると感じるのです。
同様にステアリングの剛性感というのも人間の感覚でして、可変ギアなどを搭載したりステアリングの固定方法を変えたりするだけで剛性感が高まったと感じることができます。
つまり剛性感というのは個人の感性によるものですので、レビューする人によって意見が異なるのです。
さらに話がややこしいのが自動車の剛性と人の感じる剛性感が必ずしも比例するわけではないということです。
剛性感は安定感やドライバビリティという観点で語られるため、車両の剛性をガチガチに高めても、振動で乗り心地が悪化したり、ハンドルの修正舵が多くなったりして挙動が不安定な自動車と感じてしまうため良い評価が得られないのです。
一昔前の自動車開発ではセンサーなどを使って剛性を評価していましたが、近年はこの人の感じる剛性感を高めるために自動車メーカーは試行錯誤をしています。
剛性感は乗らないのわからないので、必ず試乗しよう
自動車を試乗せずに購入する人も多いと思いますが、可能な限りファンモビ管理人としては試乗をすることをお勧めします。
剛性感というのは人の感性によるもので、センサーでは測定しきれない微細な指標だったりしますので、スペック上の剛性だったりサスペンションの形式(ダブルウィッシュボーンとトーションビームなど)で単純に判断できるものではありません。
エンジンやサスペンションをボデーに固定するゴムのブッシュの硬さなどによっても剛性感が大きく異なります。
少し前に、マツダが新モデルでトーションビームを採用した時に、仕様だけ見てコスト削減と騒がれていたことがありましたが、サスペンションとボデーの固定方法やブッシュの硬さなどの設定でダブルウィッシュボーンよりも走りがよくなる場合があるのです。(実際に乗ってみると後輪が安定しており、剛性感を感じたりします)
車は高い買い物ですし、長い時間を過ごすにつれて愛着がわいてくるパートナーですので
レビューを見て購入の意思決定をするのではなく、実際に乗ってみて自分の感覚で剛性感を味わい評価することをお勧めします。